佐賀地方裁判所 昭和53年(ワ)22号 判決 1983年12月16日
原告
X1
原告
X2
右原告両名訴訟代理人
安永沢太
安永宏
杉光健治
被告
佐賀県
右代表者知事
香月熊雄
右訴訟代理人
矢野宏
日野和也
外五名
被告
国
右代表者法務大臣
秦野章
右被告両名指定代理人
小林秀和
外四名
主文
一 被告らは連帯して、原告X1に対し金一〇三五万七二六五円、原告X2に対し金一〇〇万円および右各金額に対する昭和五二年六月一四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの負担、その余を被告らの負担とする。
四 この判決の一項は仮に執行することができる。
但し、被告らにおいて、原告X1に対し金二五〇万円、原告X2に対し金五〇万円の各担保を供したときは、右仮執行を免れることができる。
事実《省略》
理由
一請求原因1、2の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件公訴事実の要旨は、別紙(一)(本件)記載のとおりであり、また、右無罪判決の理由の要旨は別紙(二)(第一審判決)、(三)(第二審判決)記載のとおりであることが認められる。そこで、右の理由によりX1が右公訴事実について無罪であるのに拘わらず、X1を逮捕、勾留し、公訴を提起したことについて、被告らに国家賠償法上の損害賠償責任が存するかについて検討する。
二警察官の違法行為
1 別件逮捕の違法について
(一) 請求原因3(一)(1)の事実(「本件被疑者として」とある部分を除く。)及び同(2)の事実(「昼食後の休憩時」とある部分を除く。)並びに同(4)のうち右日本刀が本件犯行に使用された疑いが十分に予想される旨の捜査報告書を作成し、これを疎明資料のひとつとして、X1に対する別件逮捕状を請求し、その発付を得て同日午後八時二〇分、X1を逮捕したこと及び同(5)のうち二月二四日X1が本件について自白したこと、同日付で本件自白調書が作成されたことは、いずれも当事者間に争いがない。
(二) そこで別件逮捕の違法性について検討する。<証拠>によれば次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。
(1) 昭和四八年一月中旬ころ、本件に関し、佐賀地方検察庁と本件捜査本部は、合同で捜査会議を持ち、その席上佐賀地方検察庁唐津支部検察官検事藤井俊雄(以下単に「藤井検事」という。)は、現在収集されている証拠をもつて本件を被疑事実として、X1に対する同人居宅の捜索差押令状の発付を受けることが可能である旨発言し、同会議において、被害者松岡とみの命日と推定されている同年二月二一日にX1を取調べるとともに同人居宅の捜索並びにとみの衣類等の差押えを行なうことを決定した。
(2) 右決定に基づき、同年二月一八日県警本部捜査一課第一係長警部野口章が原告X1の本件容疑が濃厚である旨の捜査報告書を作成し、翌一九日有田署は右捜査報告書等を添付資料として伊万里簡易裁判所に捜索差押令状を請求し、同日その発付を得た。そして同月二一日県警本部捜査一課次席丸山親夫警視がX1居宅の捜索の指揮を、右野口警部補がX1の取調べを、県警本部捜査一課第二係長警部補鳥井秋光が甲の取調べをそれぞれ実施した。
(3) ところでそれより以前昭和四四年二月二七日に発見された被害者松岡とみの死体は、同日解剖されたが、有田署の嘱託により右解剖を実施した久留米大学医学部法医学教室教授原三郎の同年四月一六日作成の鑑定書によれば、前頭、頭頂部、後頭部の合計八ケ所の創について「いずれも切割創と考えてよく、従つてその成傷器は有刃性のもので、ある程度の重みのあるものと推定されるが、頭骨に全く損傷がみられないので、非常に重い大型のものとは考え難いようである。」と記載されていた。犯行当時県警本部捜査一課特捜班長小森恒臣は、右成傷器は薄刃の包丁ではないかと推定し、とみ方の包丁類のルミノール検査を実施したがいずれも陰性であつた。また捜査関係者は右成傷器として大体において出刃包丁の類いを想定しており、前記野口警部補も当初は日本刀は考えておらず、日本刀で切れば頭部の傷はもつと骨まで達するような傷になるのではないかと思つていた。
(4) 昭和四八年二月二一日X2の申出により発見され、同原告の任意提出により領置された日本刀は直ちに県警本部鑑識課に回され、血痕付着の有無と本件の成傷器の可能性につき鑑定が求められた。そして同日午後、同課技術吏員堤亀一は、右日本刀のルミノール検査の結果は陰性で血痕付着は認められない旨を電話で回答した。また成傷器の可能性については、同月二七日書面にて「無いとは言へない」旨の回答をしたが、その記載の趣旨は無理に両方の手で相手が動かないような状態でやれば、できないこともなかろうと思つたからということでその可能性は強くないと考えていた。また昭和四四年四月二四日X1に対して実施したポリグラフ検査中緊張最高点質問表(7)凶器の種類についてでは裁決質問として「包丁」を、非裁決質問として「日本刀」、「ナイフ」、「カミソリ」を考えていたと思われる質問構成がなされていた。
(5) それにもかかわらず捜査本部は右日本刀で一応逮捕した上で、本件につきX1を取調べようと考え(杉原警部補は、身柄を拘束して追及するのが事件解決のための警察官の務めであると考え)、昭和四八年二月二一日、同日付で「解剖鑑定結果(別添資料)の部位から判断して、この日本刀を使用した疑いが十分に予想され、かつ、殺人事件について追及されることを予想して逃走することが十分考えられるので通常逮捕状を請求し、逮捕する必要があると認められる」との捜査報告書を作成し、逃亡のおそれを理由として別件につき逮捕状を請求し、同日その発付を得た。
(6) X1は、当時前科前歴は全くなく、X2と共に原重製陶所に継続して勤務しており、一〇歳と六歳になる二人の子供と共に暮らしていた。右逮捕状請求時点において、X1、X2は互いに通謀できない状況の下で、日本刀所持に至る経緯につき佐世保にいた当時から家の中にあつた旨の一致した供述をなしており、これを何らかの犯罪に使用したことを疑わせるような事情は、前記の点を除き存在しなかつた。
(7) X1は昭和四八年二月二一日午後八時二〇分有田署で別件につき逮捕状の執行を受け、同月二三日午後六時四三分検察官に送致された(その間の身柄拘束は四六時間二三分となる。)。X1に対する取調べは同月二二日は、午前一〇時一五分ころから午後零時四〇分ころまでの間、午後一時三四分ころから同五時三〇分ころまでの間、同六時四〇分ころから同一〇時一〇分ころまでの間の、のべ約一〇時間近く実施された。その間土井昇巡査部長が一ないし二時間程度日本刀所持の事実について取調べ、調書二通を作成したが、右調書には、いずれも本件との関連については全く触れられていない。また主にX1の取調べにあたつた野口警部補も上司からの指示で右日本刀を本件に使用したかと一応聞いてはいるものの、伯山からとみのふとんが発見されたこと、ポリグラフの結果が陽性に出ていることなどを告げて、もつぱら本件についてX1を追及した。翌二三日も午前一〇時四五分ころから午後零時二〇分ころまでの間、午後一時一〇分ころから五時三〇分ころまでの間、それぞれ野口警部補が本件の取調べをなし、同日午後六時四三分に検察官に送致した後も午後七時四〇分ころから九時五八分ころまでの間杉原荒男警部が鳥井警部補を補助者として親子の情愛を説くなどして本件の取調べを実施した。したがつて二三日の取調時間は約八時間となる。なお、別件の検察官への送致書及び検察官に対するX1の弁解録取書には、いずれも本件との関連性については全く触れられていない。
以上の争いのない事実及び認定した各事実によれば、別件逮捕状請求の時点において捜査本部としては、同日発見された日本刀所持の事実だけでは、ことさらにX1を逮捕する必要がなかつたので、本件との関連性が薄いにもかかわらず、敢えて右日本刀が本件の成傷器である疑いが「十分」ある旨の捜査報告書を作成し、右の関連の下で逃亡のおそれがあるとして別件の逮捕に踏み切つたものであり、その後翌二二日、二三日の両日とも日本刀と本件との関係は一応聞いてみる程度で、もつぱら本件について午前中から午後一〇時ころまで身柄拘束の時間を最大限に利用してその取調べを実施しているのであり、右の経緯を総合すると、別件自体についてはX1を逮捕する必要性がなかつたのにもかかわらず、敢えて本件捜査のためX1の身柄を拘束して自白を得るために、関連性の薄い別件の日本刀が本件の成傷器である疑いが十分あるものとして別件逮捕に踏み切つたものと認められ、右別件逮捕には令状主義を潜脱する意図を伴う重大な違法があつたというべきである。(なお<証拠>によれば、昭和四八年二月二一日の午後七時ころ別件の日本刀が本件の成傷が起きるような凶器であり得ることもある旨の連絡があつたことをうかがわせるが、仮にそうだとしても、前記のとおり右日本刀を鑑定した堤亀一は右の可能性は強くないと考えていたのであるから、かなり否定的な連絡であつたと推認され、これをもつて令状主義を潜脱する意図が全くなかつたとすることはできないものといわねばならない。)
そして、身体の自由が最も基本的な人権であり、身体の拘束が憲法三三条およびこれをうけた刑事訴訟法、同規則に定める令状主義の極めて厳格な規制のもとにはじめて許されるものであるから、右逮捕はたんに刑事訴訟法上違法であるだけでなく、民事法上も違法な権利侵害として不法行為を構成するものであることはいうまでもない。
2 本件逮捕の違法について
請求原因3(二)(1)の事実は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば次の事実が認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。
(一) X1は前記のとおり昭和四八年四月二四日に本件について自白をし、その旨の調書が作成されたが、捜査官らは右自白の裏付けを得るため、同日午後三時すぎから同五時ころにかけてX1が右自白において被害者とみ宅から搬出した衣類、布団等を投棄し又は焼却したと述べた場所について現場引当り捜査を実施した。
(二) 右現場確認には別件逮捕中にX1を取調べた丸山警視、杉原警部、鳥井警部補他数名が同行し、被害者とみの死体が発見された須田川堤、衣類を焼いたとされる木原山中、被害者とみのものと思料される布団の発見現場の三か所について実施されたが、新たに発見された物証は何もなかつた。
(三) また右布団の発見現場は、すでに捜査本部に判明しており、右現場確認当日には捜査官側が発見場所に白いビニールテープをはつたままにしていた。X1は同月二一日にはポリグラフ検査により、同月二三日には右布団の写真を示されたことにより、右現場付近から布団が発見されたことは充分認識しており、杉原警部から「こつちではないか」という指示も受けて、右ビニールテープのところへ行き着いた。
(四) それにもかかわらず、右現場確認についての翌二五日付捜査報告書には、右布団発見現場にビニールテープを捜査官側が残していたことについては全く触れず、敢えて「その場所は発見した当時徹底的に捜索した場所であつたので地表が周辺と若干違つていたがその位置方向は証拠を隠匿した者でその地形や物を知つているものでなければ指示することができないものと確認されるとともにX1が松岡とみ殺の犯人であるという確心を得た」と記載した。
以上の事実に前記二1(二)で認定した事実を総合すると、本件逮捕状請求当時前記自白調書以外に本件についてX1を逮捕すべき理由を認めうる資料は全くなかつたものであるところ、右自白調書は前判示のとおり違法な別件逮捕に基づく違法な取調べによつて得られたものであるから、いわゆる違法収集証拠として公訴事実認定のための証拠能力を否定されるだけでなく、逮捕、勾留の疎明資料とすることも許されないものであることは本件の刑事事件の控訴審判決(別紙(三))の判示するとおりである。したがつて右自白調書を除けば本件逮捕の理由はないから、結局本件逮捕もその理由を欠く違法なものであつたといわざるをえない。のみならず更に右自白に基づき何らその信用性を担保する物証も現われていないのに、その捜査報告書には、ことさらに白いビニールテープが張つてあつた旨を記載せず、あたかもX1が布団の投棄場所について事前の知識なく、かつ、特定する目印もないのにみずから積極的に指示し、いわゆる秘密の暴露があるからその自白に信用性があるかのような記載をなし右自白調書によつてX1の身柄拘束を続けようと意図していたことが推認されるのであり、これらの事実によれば、右別件逮捕に引続く本件逮捕もまた令状主義を潜脱する意図を持つた違法なものであり、民事法上も不法行為を構成するものといわざるを得ない。
3 取調べの違法について
(一) 任意捜査の名を借りた強制捜査について
請求原因3(三)(1)の事実のうち、X1方近くの山林から被害者が使用していたと思われる掛布団が発見されたこと、昭和四八年二月二一日X1を有田署に任意同行したこと、同日午前八時三〇分ころから同署においてX1に対するポリグラフ検査を行なつたこと、午前一〇時ころから同署一階の当直室で野口警部補が土井巡査部長を補助者としてX1から事情聴取し又は取調べたこと、その際X1方の近くの山林から被害者が使用していた掛布団が発見された旨を告げたこと、右野口警部補の事情聴取又は取調べは同日午後五時ころまで行われ、連絡係として国政巡査が配置されていたこと、午後八時二〇分別件の逮捕状を執行したが、その間X1が同署にいたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば次の事実が認められ、他にこれを覆すに足る証拠はない。
昭和四八年二月二一日午前八時ころ、捜査本部は警察官三名をX1方へ派遣し、任意に同行を求め、X1はこれに応じて有田署まで同行した。そして技術吏員宮地良雄はX1にポリグラフ検査を実施する旨を告げ、その承諾を得て同日午前八時四五分ころから同一〇時一七分ころまでこれを実施した。その後一〇時三〇分ころから、引続き野口警部補が一階の当直室において本件の容疑でX1の取調べを行なつた。その際任意性確保のため土井巡査部長が立会い、また取調室の出入口には、連絡係として国政充巡査が配置されており、X1がトイレへ行く際は、同行して逃走しないよう配慮していた。しかし、右取調べの間帰宅しようとするX1を強制的に留めたことはなく、X1の勤務先である原重製陶所から電話で呼出しがあつたときは、X1の意思に基づき原重製陶所に戻つて仕事を済ませ、再び任意に有田署へ出頭した。本件の取調べは午後五時ころ終わつたが、そのころには、既に日本刀の不法所持の事実により別件の逮捕状の請求がなされており、X1にもその旨が告げられた。また捜査本部は別件の逮捕状が当然発付されるものと考え、X2に対してもX1の下着等を有田署まで持参するよう指示し、同日五時半ころには、X2から有田署に歯ブラシ、タオル下着等が差入れられた。X1は帰宅したい旨を申し出たが、逮捕するので残るように求められた。
以上の事実及び前記争いのない事実によれば、昭和四八年二月二一日の朝から夕方五時までの取調べは、強制的な身柄拘束とまでいうことはできず、午後五時以降も逮捕の予定であるから残るよう求めたにとどまり、これに対しX1がなおも有田署から出ることを要求し、退室する挙動を示したのに、これを強制的に阻止したなどの事実はなく、そうすると、別件で逮捕されるまでは、これをとくに違法な身柄拘束ということはできないものというべきである。(なおX1は、右取調べの後別件で逮捕されるまで房に入れられた旨の供述もしているが、業務の過程において作成された<証拠>には、いずれもその旨の記載はなく、かつ、逮捕状を執行する以前に収監することは通常考えられず、右供述は措信し難い。)
(二) 別件逮捕中の本件取調べの違法について
請求原因3(三)(2)記載の事実のうち(イ)、(ロ)、(ハ)記載の事実は当事者間に争いがない。ところで前記のとおり、別件の逮捕は、本件につき捜査する意図でなされた違法なものであるから、右(イ)ないし(ハ)記載のようになされた本件についての取調べが余罪取調べの限度を越えているか否かについてはそもそも問題にすることなく、右取調べは令状主義を潜脱する意図をもつた違法なものというべきである。
(三) 自白の強要の違法について
請求原因3(三)(3)記載の事実のうち、ポリグラフ検査の結果が陽性であること、及びX1方の近くの山林から被害者が使用していた掛布団が発見されたことをX1に告げたこと、伯山に現場確認に行つたこと、X1が三月二日否認したことは、いずれも当事者間に争いがない。そして<証拠>によれば次の事実が認められ、これを覆すに足る証拠はない。
1 X1は、昭和四八年二月二一日午前中から本件につきポリグラフ検査を受け、引続き本件につき取調べを受け、終始本件犯行を否認していたが、同日午後八時ころから身柄拘束のまま取調べが継続され、その間、同月二四日に初めて本件犯行を自白し、同年三月二日再び否認に転じ、同月六日夜再度自白するに至り、さらに同月一二日再び否認し、以後否認のまま同月一七日起訴された。
2 右身柄拘束中のX1に対する取調時間、及び弁護人の接見状況は別表(1)記載のとおりであり、同人の房内における行状については別件逮捕後起訴に至るまでの二四日間、休みなくその監視が続けられ、睡眠中の状況も細かく記録されていた(ただし二月二六日の深夜及び二月二八日夜から三月一日の起床までの状況については記録されていない)。右行状記録によれば、右期間中、X1はしばしば寝返りをうち、起きているときは、ひざを抱えてぼんやりと考え込んでいる時が多く、食事も初めの数日間は充分に摂取してはいなかつた。
3 右取調べの時、本件の掛布団を伯山に投棄した状況及び死体遺棄状況の目撃者は発見されていなかつたが、投棄された掛布団と思料される包みを伯山の道路沿いに発見した者及び死体遺棄現場付近に事件のころ車が停車していたのを目撃していた者のいることは捜査本部に分かつていた。
4 X1は、警察官に対しては三月二日から本件犯行を否認していたが、藤井検事に対しては、同月四日の取調べの時に否認した。しかし、その際藤井検事はX1の否認の供述については調書を作成しなかつた。翌五日は何らの取調べもなく、弁護人との接見がなされ、翌六日の午前中に鳥井警部補が調書を作成した後、再び同日午後藤井検事の取調べがあり、その際X1の否認調書が作成された。
5 鳥井警部補は、右検事の取調べ終了後、再び同日午後六時五七分にX1を房外に呼出し、取調べをはじめた。その時の取調べは、事件を洗い直すという意図ではなく、X1がもう一回考え直して自供するよう求めるものであつた。そして午後八時ころからは丸山警視が取調べを交替し、右鳥井、杉原立会の下で、何故やつていないものを自供するに至つたのか、それを納得できるよう教えてくれ、なぜなんだとはつきりいいなさい、鳥井係長の目をよく見て言いなさい等と告げながら取調べをした。その結果X1が再び自供するに至つたので、否認の理由のみを記載した八丁からなる供述調書一通を作成し、X1を同月七日午前零時一〇分房に戻し、同日午前一時一七分になつて再び杉原警部が同人を起こし、右取調べの時の録音テープに相違ない旨の署名押印をさせた。
以上の事実によれば、別件で逮捕されてから最初の本件の自白までの間、X1は睡眠、食事ともに充分ではない状態のもとで、昭和四八年二月二二日は九時間五一分、同月二三日は九時間一三分、いずれも午後一〇時ころまで房から出されて取調べを受けて本件犯行を自白するに至り、その後再び犯行を否認し、三月六日検察官に対する否認調書が作成されるや通常取調べが全て終了している時刻である同日午後六時五七分になつてX1を再び房から呼び出し、否認が虚偽であるとの確信のもとに、なぜ否認したのか、なぜ自白していたのか、などとくりかえし問い詰めるなどして否認の撤回を求めて取調べ、深夜零時一〇分ころまで房に戻さず、再び自白調書を作成したものであるが、一方X1は身柄拘束後数日間は睡眠を十分にとれず、深夜に何度も寝返りをうつ状況であり、食事も十分にとれない状況であり、連日の長時間の取調べで相当に疲れていたことがうかがわれる。そしてX1本人は、本件犯行を自供するに至つた理由として、警察官から連日長時間にわたる取調べを受け、自分は何度もやつていないと否認するのに一向に聞き入れてくれず、ポリグラフ検査が陽性に出ていること、被害者の掛布団がX1方付近の山林から発見されたこと、X1にアリバイがないこと、などをあげて、お前がやつたのであろうと、くりかえし執拗に自白を求められて、精神的に疲れ果ててしまい、自分が自白しないかぎりいつまでもこのような状態が続くと考え、このような精神的苦痛から一刻も早く解放されたいばかりに、ついに自白に踏みきつたのであると供述し、さらに弁護人の忠告により思い直して検察官の面前で否認したが、その後また警察官によつて、今まで自白していたものをなぜ否認したか、本当にやつていないのならなぜ自白したのか、などと深夜に至るまで追及を受け、再び前記と同様の心理状態となり、たとえ検察官の面前で否認をしても夜になれば警察官から自白するまで深夜にわたつて何時間でも追及されるのではないかと考え、否認を通すことができず、再度自白するに至つたものであると供述している。そして最初の二月二四日の自白についてはその直前の同月二二日と二三日に前記のとおり各九時間余の長時間しかも夜一〇時前後ころまで取調べがなされ(当時X1は睡眠も食事も十分にとれない状態であつた)、三月六日の自白の際は、同日検察官の取調べも含めて実に一二時間三三分の長時間、しかも深夜午前零時一〇分ころまで取調べを受けていることは、X1本人の右供述の迫真性を有力に裏付けているということができる。
そして前記認定のとおり、X1の自白以外にX1と本件犯行とを結びつける根拠は殆んど見当らず、X1を追及すべき資料は極めて乏しいのであるから、前記の如く長時間、深夜に及ぶ取調べの必要性があつたとはとうてい考えられない。したがつてX1に対する本件取調べは、X1本人が供述するとおり、専らポリグラフ検査の結果(その信頼性に多くの疑問のあることは後記判示のとおり)とかアリバイがないとかの、X1が殆んど弁解のしようのないような根拠を示して、お前がやつたのであろうと執拗に自白を求めるだけで、このように長時間、深夜に及ぶ取調べをなしたものと考えざるをえず、とくに三月六日の警察官による取調べは専ら前記のとおり自白の撤回を求めるためだけに長時間、深夜に及ぶ取調べをしたものであつて、これらの取調方法はもはや捜査官に認められた取調方法の範囲を著しく逸脱した違法なものと認めざるをえない。またその結果得られた自白の内容じたいにも後記判示のとおり互いに予盾したり、不自然な点が多く、その真実性には多大の疑問を抱かざるをえないのである。
もつとも、Xら主張の如く、X1が前記掛布団を投棄している現場を目撃した者がいるとか、X1が被害者の死体を須田川堤に遺棄している現場を目撃した者がいるなどと虚偽の事実を告げて自白を強要したとする点については右事実を認めるに足る確たる証拠はない。
(四) ポリグラフ検査結果の信用性について
一般にポリグラフ検査は、検査技法の原理に基づいて構成された質問を一定の順序に従つて被検査者に提示し、それぞれの質問に対応して発現した生理反応を比較検討して判定するもので、緊張最高点質問法と対照質問法の二種類がある。前者は、検査の対象となつた犯罪の詳細な事実に対して被検査者が認識を有しているか否かを判定するもので、裁決質問と非裁決質問から構成される。裁決質問の内容は、検査の対象となつている犯罪の詳細な事実で、被害者・捜査官及び犯人以外には知られていないもので、犯罪を実行した者であれば認識している可能性が極めて大きいという条件を満たすことが重要で、これと並べて提示される質問(非裁決質問)は第三者からみて質問内容の価値に何の相違もないことが必要である。つまり第三者からはどれが裁決質問か分からないが、被害者、捜査官及び犯人には分かるので、その裁決質問に対する反応の特異性からその事実を知つているか否かを判断することが可能となるのである。したがつて非裁決質問の内容は捜査の対象となつた犯罪とは全く関係のない者にとつては、裁決質問の内容と等しい価値のある事柄であることが絶対的条件とされているのである。これに対して対照質問法は、有罪意識の有無及び程度を判定することを目的とするもので関係質問、対照質問、無関係質問の三種類の質問から構成される。関係質問は、直接当該犯罪について「あなたですか」と尋ねることによつて生理的な反応の発現を見ようとするもので、対照質問は、検査の対象となつた犯罪の内容とほぼ同じ性質の犯罪に関する事柄で被検査者が「いいえ」と答えるのが真実に合致する質問である。すなわちもし犯人でなければ関係質問に対しても対照質問に対しても同じように反応する(誰でも一定の犯罪事実につき犯人は「あなたですか」と問われれば多少の生理的反応がある)であろうから、対照質問の反応を基準として関係質問の反応を比較対照することにより有罪意識を判定することが可能となるのである。無関係質問は、被検査者の感情の動きを誘発せず、被検査者が肯定の返答をする事実(例えば、被検査者の氏名、年齢、住所など)であり、一連の質問を次々と呈示すると最初の質問に対して顕著な反応があるため、この無関係質問を初めにおき、また関係質問と対照質問とを連続的に提示すると、各質問に対する反応が重なり合つて判定を難かしくするので、無関係質問を入れて緩衝の役を果させるとされている(「捜査のための法科学<第一部化学・文書・心理>」科学警察研究所法科学第一部長丹羽口徹吉編、令文社、昭和五五年)
そこで右の科学警察研究所で実施されているポリグラフについての考え方に基づいて、昭和四四年四月二三日(乙第一五三号証)及び昭和四八年二月二一日(乙第一五四号証)X1に対して実施されたポリグラフ検査の結果を検討してみると、少くとも次の事実が認められる。
(1) 昭和四四年四月二三日実施のポリグラフ検査結果
(イ) 右ポリグラフ検査は、緊張最高点質問表(以下「POT」という。)九問、対照質問表(以下「CQT」という。)一問から構成されており、質問内容並びに裁決質問の各質問番号及び返答、反応の有無は別表(2)記載のとおりである。
(ロ) POT(1)については3のみが「あなたが」となつており、他の質問と明らかに区別ができ、かつ、捜査官も知らない事実である。
(ハ) POT(2)については、何が裁決質問か表の記載からは分からず、かつ、捜査官も知り得ない事実である。
(ニ) POT(3)は、3、5が本件犯行に関係のある事実で、5は特に本件の死体遺棄の事実を直接に問う質問で、質問間の等価性がなく、かつ、捜査官にも分からない事実で、表の記載から何が裁決質問かが分からない。
(ホ) POT(4)は、3のみが「あなたが」となつており、2、4でないことは当時の関係者が充分に知つていた事実であり、かつ、捜査官にも3が事実かは分からず、また裁決質問を特定できない。
(ヘ) POT(5)は、当時布団は発見されておらず、捜査官でさえ知り得なかつた事実で、かつ、僅かに特異反応がある2、3、4の事実と発見された布団の場所とは一致していない。
(ト) POT(6)は、3のみが「あなたが」となつており、他の質問と明らかに区別できる他、捜査官も知り得ない事実である。また質問番号3は、当時捜査官は、X1が会社の車を持ち出して死体を捨てたと推測していたことをうかがわせる。
(チ) POT(7)は各質問間に価値的同一性は認められるものの、捜査官も知り得ない事実で裁決質問を特定できない。また日本刀については特異反応が認められない結果が出ている。
(リ) POT(8)は3のみが「あなたの家から」となつており、明らかに他の質問との間に差異があり、かつ、捜査官も知り得ない事実である。また凶器はX1の家から持出したことについて顕著な特異反応が認められるが、自白ではとみ方にあつた包丁となつており一致しない。
(ヌ) POT(9)については3のみがX1に直接関係することであり、いずれも捜査官の知り得ない事実である。
(ル) CQTについては3、5、9が関係質問とされているが、8、10についても本件に関係のある事実で有罪意識を問う質問であり、6も本件に関係がないとはいえず、対照質問として適切といえるかについて疑問が残る。そうすると無関係質問に比べて特異反応が認められたとしても、それから当然に有罪意識を有すると推定してよいかについても疑問が残る。
(ヲ) 右検査結果のまとめとして、POT(3)の5、POT(4)の3、POT(6)の3、POT(7)の3、POT(8)の3、POT(9)の3、CQTの各関係質問に特異反応があり、心理的動揺が認められるとして、総合的考察の結果陽性と判断している。
(2) 昭和四八年二月二一日実施のポリグラフ検査結果
右ポリグラフ検査はPOT一四問、CQT一問から構成されており、質問内容並びに裁決質問、関係質問の各質問番号及び返答、反応の有無は別表(3)記載のとおりである。
(イ) POT(1)は、五問中、裁決質問である3のみが「あなた」が主語になつており、他はすべて他人がやつたか知つているかという質問になつており、何人が見ても裁決問題と非裁決問題の差異は明らかであり、各質問の間に第三者に対する価値的同一性は認められない。
(ロ) POT(2)は、被害者のものと思われる布団が発見された場所で、発見当時捜査官、発見者及び犯人以外の知り得ない事実であつたが、四問中裁決質問である3のみが道から奥に入つたところにあり、非裁決質問との差異が認められる他、本件ポリグラフの実施された時は、発見後五か月も経過しており、大体の場所は伝え聞いていた可能性がない訳ではなく、そうするところに対しX1が反応したからといつて特異反応ということはできない。
(ハ) POT(3)についても、もしX1が布団の発見された大体の場所を伝え聞いていたとすれば、それが雑木林であることも知りうるのであるから、やはりこれをもつて特異反応といえるかは疑問がある。
(ニ) POT(4)及びPOT(6)については、前記(イ)同様裁決質問のみが「あなた」となつており非裁決質問との差異は何人にとつても明瞭である。
(ホ) POT(5)については、X1はしばしばとみ方に夜出かけて行つていたのであるから、犯人でなくても犯行当時とみ方からなくなつた掛布団の柄模様を知つていたとしてもおかしくなく、これも犯人以外は知り得ない事実と言えるか疑問がある。なお、甲第一号証によれば、甲は昭和四四年二月二五日当時とみ方から紛失した寝具、衣類の種類、枚数等を詳細に述べており、甲も布団の柄模様についても認識があつたと推認される。
(ヘ) POT(7)は、いずれが裁決質問かが明示されておらず(おそらく3が裁決質問と推定されるが)、この表からは裁決質問に対し特異反応があつたのかは確認できないのみならず、死体が発見されたのは本検査の四年前のことであり、当時の新聞等では推測される犯行態様などが報道されていたものと推認される。
(ト) POT(8)、(9)、(10)は、捜査官においても全く知り得ない事実であつて、栽決質問を特定できないから判定することは不可能である。けだし、そのうちのひとつに特異反応を示したとしても、それが裁決質問に対する特異反応ということはできないからである。
(チ) POT(11)は、犯罪の事実に関するものではなく、質問から動機の前提としての被害者に対する恨みの有無を直接聞き、その虚偽性を判定しようとするもので、これも裁決質問を特定できず、かつ各質問の第三者に対する価値的同一性は認められない。
(リ) POT(12)は何が裁決質問かを特定できず、事実が1でなく3であることは事件関係者はすべて知つており、4は捜査官でさえ全く知り得ない事実であつてその真偽の確認は全く不可能である。
(ヌ) POT(A)は、何人がみても3のみが犯人だけが知つていることで、その他はすべて伝聞によるものであることが一見して明らかであり、裁決質問と非裁決質問とは誰でも区別できるものである。
(ル) POT(B)も3のみが、「あなたの家の近く」とあり、各質問の第三者に対する価値的同一性がない。
(ヲ) CQTでは関係質問は3、5、9とされているが、8、10も関係質問であると考えられ、わずかに6のみが犯罪に関係があるが本件には関係なく、「いいえ」と答えて反応が出ないと予想されるものと言えなくもないが、これとても全く関係ないとはいえず、現に「いいえ」と答えて特異反応がある(対照質問に特異反応があることも前記ポリグラフ理論に照らすと疑問がある)のであるから、適切な対照質問はひとつも含まれていないことになる。
(ワ) 右検査結果のまとめとしてPOT(A)、(B)の各3、POT(7)、(8)、(11)の各3、POT(9)の1、2、POT(10)の1、3、POT(12)の3、4、及びCQTにおける各関係質問に特異な反応があり、心理的動揺が認められるとし、総合考察の結果陽性と判断している。
以上の(1)、(2)において検討した事実によれば、果して右(1)の(ル)、(2)の(ワ)に掲記された各質問に特異反応があつたとしても、これをもつてX1が犯人以外は知り得ない客観的事実について認識を有しており、かつ、本件事実について有罪意識を抱いていると推認することには多大な疑問を持たざるを得ない。
このように右ポリグラフ検査についてはその信用性について多大の疑問があるにもかかわらず、右ポリグラフ検査結果が陽性と出ているから間違いないとしてX1に対し自白を求めたことは、著るしく相当性を欠くものであつたといわねばならない。とくにX1の供述によれば、ポリグラフに黒と出ているといわれて責められるのが一番つらかつたと供述しており、これらポリグラフ検査の結果のみを告げることに対しては全く弁解のしようがないのであるから、これをつきつけて自白を求めることにより、前記認定の長時間にわたる取調べ、深夜に及ぶ取調べなどの事情とあいまつて、X1に不当な心理的圧迫を加え、自白を強要したことが容易に推認できる。
4 小括
以上の事実によれば、本件捜査において警察官の行なつた別件逮捕及びこれに引続く本件逮捕は、令状主義を潜脱する意図を持つた違法なものであり、その間及びその後の取調方法も前記のとおり、捜査官に許された範囲を著しく逸脱した違法なものであり、そのためにX1は引続き身柄を拘束され、本件について公訴を提起されるに至つたということができる。そして本件捜査を担当した警察官らが被告佐賀県の公務員であり、その職務行為として本件の捜査をなしたことは当事者間に争いがないのであるから、被告佐賀県は国家賠償法一条一項により、X1に対し、その身柄が拘束され本件につき公訴を提起されたことによつて被つた同原告の損害を賠償する責任があるといわなければならない。
三検察官の違法行為
1 身柄拘束の違法について
X1に対し、佐賀地方検察庁唐津支部検察官が昭和四八年二月二六日佐賀地方裁判所唐津支部裁判官に対し、本件につき勾留請求をし、勾留状の発付をえてこれを執行し、その後同年三月一七日までX1を勾留したことは原告らと被告国との間には争いがなく、被告県との間では、<証拠>によつて右事実を認めることができる。
ところで、一般に刑事事件において被告人に対する無罪判決が確定したからといつて、これに先行する身柄拘束が当然に違法となるものではなく、検察官において勾留の請求をし、その後勾留を継続したことが違法であるというためには、その行為の時点を基準にして検察官のとつた右措置が合理的な裁量の範囲を逸脱していることが必要であると解すべきであり、右合理的な裁量の範囲を逸脱したと認められる場合には、特段の事情のない限り過失が推定されると解するのが相当である。そこで本件勾留請求及びその後勾留を継続したことについて検察官に合理的な裁量の範囲を逸脱した違法があるかにつき検討する。
(一) 本件勾留請求についての違法
<証拠>によれば次の事実を認めることができる。
(1) 藤井検事は、昭和四六年佐賀地方検察庁唐津支部に着任したころから、本件が重要未検挙事件のひとつとされ、容疑者としてX1の氏名が挙げられていることを知つていたが、昭和四八年一月中旬ころの本件に関する捜査会議に出席するため、当時の捜査資料全部に眼を通し、右資料によつて本件を被疑事実としてX1の家宅捜索令状の発付を得ることができると判断した。そして警察側の申出により被害者とみの命日である二月二一日に右捜索を実施し、同時にX1から事情聴取を行なうことを決定した。
(2) X1は、昭和四八年二月二一日別件で逮捕されたが、藤井検事は、同日又はその翌日ころ、右の事実及び別件の日本刀が本件の成傷器たり得るとの報告を受けた。
(3) 藤井検事は、X1が本件について自白をした事実を右自白の日である同月二四日に知つたが、その報告の要旨は、同日の取調べで一時間前後で自供した、その際悔悟の情を表して自白した、その後引き回しをした結果当時捜査官が知らなかつたことまで指示したりしており右自白は十分信用できる、というものであつた。またポリグラフ検査結果もX1は陽性、甲は陰性と出ている旨の報告も受けていた。
(4) 本件は、その捜査資料とともに同月二六日藤井検事に送致されたが、右送致書類には別紙(四)記載の書類が含まれていた。
(5) X1は同日午後二時三〇分有田警察署から佐賀地方検察庁唐津支部に送致され、同日午後三時二〇分同支部は右送致を受けた。同日午後三時四〇分ころX1の本件についての検察官に対する弁解録取書が作成されたが、右弁解録取書には、本件事実の要旨につき間違いない旨及び自白した動機について実母に成仏してもらおうという気になつたからである旨が記載され、X1は、これに署名指印した。
(6) その後佐賀地方裁判所唐津支部裁判官岡田安雄がX1の勾留質問を行なつたが、右勾留質問における被疑者陳述録取書にも勾留事実は間違いない旨記載され、勾留状が発せられた。藤井検事は同日午後四時五八分右勾留状を執行した。
以上の事実及び右(4)掲記の各証拠を検討した結果によれば、右勾留請求の日までに作成された自白調書が証拠能力を有する限りは、X1が本件を犯したと疑うに足りる相当の理由があると判断した藤井検事の判断に合理的な裁量の範囲を逸脱した違法は認められず、また右自白調書の作成経緯については、右(2)、(3)のような報告を受け、X1は、藤井検事の面前においても被疑事実を認め、悔悟を理由として自白した旨も述べているのであるから、別件逮捕の違法性及びこれに基づく自白調書の証拠能力に疑念を抱かなかつたとしても無理のないことであり(仮に疑念を抱いたとしても二四時間以内に解明しえたかも疑問である)、これに証拠能力のあることを前提として本件の勾留請求をなしたことについて藤井検事に裁量の範囲を逸脱した違法はなかつたというべきである。
(二) 本件勾留の継続についての違法性
ところで検察官としては、右のとおり勾留請求及び勾留状の執行当時勾留の要件があると判断したときでも、その後の捜査の過程において、右要件が欠けると認められた場合には、勾留の延長請求を差控えるのはもちろん、勾留期間中であつても直ちに被疑者を釈放すべき職責を有するとともに、被疑者が否認をした場合においても、そのことにより直ちに右要件が欠けることになり釈放する義務を負う訳ではなく、経験則、論理則に照らして、否認が虚偽と認められる場合はもとより、自白の存否が重要な証拠であつて、いずれとも決し難いときには、自白の任意性及び信用性について必要な捜査を継続し、合理的な疑いを容れない程度に十分な嫌疑があるか否かを検討したうえ、勾留期間内において釈放するか又は起訴するかの選択をなしうるものと解するのが相当である。そこで検討するに、<証拠>によれば、次の事実を認めることができ、他にこれを覆すに足る証拠はない。
(1) X1は、昭和四八年二月二四日本件について自白をしてから同年三月二日安永宏、安永沢太両弁護人と接見し、同日付供述調書の作成終了まで捜査官に対しては、その自供内容に変動は見られるものの本件犯行を認める旨の供述を続け右供述調書作成後になつてはじめて犯行を否認するに至つた。
(2) 藤井検事は、同月四日午前中、X1を取調べ、否認の理由等について尋ねた上、本件犯行には直接関係のない生活歴等につき簡単な調書を作成した。
(3) 同月五日は、取調べはなく、X1は、午後三時ころ安永沢太弁護人と接見し、翌六日藤井検事は、X1を取調べ、否認調書を作成した。
(4) 同月七日藤井検事はX1を取調べたが、その際X1は、否認は虚偽であり、自分がとみを殺害した旨の自白をした。そして否認の理由については、死刑が恐かつたからであり、やつていないといえば弁護士が助けてくれると思つたからだと述べ、更に自白した理由については、いつまでも否認で通せないし、とみが成仏できないと思つたからである旨述べ、その旨の調書(乙第一六八号証)が作成された。
(5) その後X1は三月九日、同月一二日藤井検事に対して自白を続け、右一二日の取調べの途中安永宏弁護士と接見後、再度否認するに至つたので、右一二日付の調書の前半は自白の、後半は否認の調書(乙第一七〇号証)として作成された。X1は右調書において、再度否認した理由としては、それが本当で、やつていないからである旨述べ、その前に自白をした理由としては警察で否認しても逃げられないといわれ、検事の前で殺していないと述べたのは本心からではないだろうといわれ頭が混乱して分からなくなつたからである旨述べている。
(6) ところで藤井検事はX1の取調べにあたつては、X1に対し、黙秘権、供述拒否権の告知をする他、本件は酌量減軽しても七年以上の懲役となる重大な事件であるから慎重に述べるようにいい、仮に警察で述べたことと違つても、ここでは本当のことをいうように話をしており、X1が否認した際には、そのまま調書にとつており、また自白をする際も、同人の同意を得て取調べの過程を逐一テープに録音しており、その間無理な取調べをした形跡は認められない。
(7) 他方藤井検事は、本件がいわゆる別件逮捕中に得られた自白調書に基づいて進められたものであり、また、本件の罪体とX1とを直接結びつける証拠はX1の自白しかなく、したがつて本件各自白調書が証拠能力(任意性)及び証明力(信用性)を有することが有罪判決を得るためには不可欠であると考えて、X1の取調べに無理がなかつたかどうかをX1を取調べた警察官にたずね、事情を聴取するとともに、右自白の信用性について、これを裏付ける資料の収集を実施した。裁判官も同月七日までに収集された証拠を検討したうえ、本件が四年前の犯行で関係者が多数おり、殺害死体遺棄、賍品処分の各場所も広範囲にわたり分散するなどして事案複雑であり、被疑者の供述も変化しており、事案の真相を明らかにするためには、さらに多数の関係者につき捜査しなければならず、その取調べに日時を要するとして一〇日間の勾留の期間延長を認めた。
(8) 藤井検事は、X1の取調べを担当した捜査官に対し取調状況等について尋ねたが、特に任意性を失わせるような事情も見出せなかつたと判断し、また、X1の自白を裏付ける資料の収集は三月一七日まで引続き実施されていた。
以上の事実を総合すると、藤井検事は、本件の自白が別件逮捕中のものであり、後日X1の自白調書の証拠能力や任意性、信用性が問題となることを予測して、取調べにあたつては、十分真実を述べるよう注意を与え、警察の取調べ状況等についても聴取し、自白の信用性につき裏付捜査を実施するなど勾留期限の日まで必要な捜査活動を継続していたことが認められ、本件事案の重大性、自白の証拠価値の重大性、自白の信用性の裏付捜査の範囲など諸般の事情に照らすと、藤井検事が右認定の捜査活動を実施し、X1を本件の犯人とする上で、合理的な疑いを容れない程度に十分な嫌疑があるか否かを決するのに勾留期限である三月一七日までかかつたとしても、同人に合理的な裁量の範囲を逸脱した違法があつたとは認めるに足りないというべきである。
2 公訴提起の違法について
刑事事件において無罪判決が確定しても、直ちに公訴提起が違法となるものでないことは前記1と同様であり、公訴提起当時の証拠資料を総合して客観的に犯罪の嫌疑が十分であり、有罪判決を期待しうる合理的な理由がある限り、検察官の起訴を違法ということはできない(最判昭和五三年一〇月二〇日民集三二巻七号一三六七頁参照)。そして検察官が当然なすべき捜査を怠つて、証拠資料の収集が十分でなかつたために、又は、収集された証拠の証拠能力若しくは証明力の評価を誤つたために、経験則、論理則上、首肯し難い心証形成をなし、客観的にみて有罪判決を得る見込みが十分あるとはいえないにもかかわらず公訴を提起した場合に限り、違法となるというべきである。
そこで、以下本件に関し、公訴提起当時の証拠資料について検察官に証拠資料の収集又は評価に誤りがあるかどうかについて検討する。
(一) 自白調書の証拠能力の評価について
(1) 検察官が本件公訴を提起した昭和四八年三月当時いかなる場合に別件逮捕が違法とされ、また、自白調書の証拠能力が否定されるかに関しては、既に別紙(五)記載のような判例及びその評釈等の学説を一般に知ることができた。
(2) 右判例、学説によれば、別件の逮捕、勾留を利用して余罪である本件を取調べること自体は違法ではないが、本件の取調べのために、ことさらに起訴価値又は身柄拘束の必要のない別件について逮捕又は勾留し、本件の取調べを行うことは違法であり、その場合にその間に作成された自白調書の証拠能力が否定される場合があるという点では大方一致しており、東十条事件では、違法な別件逮捕との前提で、司法警察員に対する供述調書は任意性がないとし、検察官に対する供述調書は信用性がないとして被告人を無罪にしたこと、蛸島事件では、違法な別件逮捕・勾留中の自白調書は、適正手続に違背するもので、その証拠能力は否定されるべきものであり、これを証拠資料とした本件逮捕・勾留も憲法三三条、三四条に反する違法なものであるから、その間に作成された自白調書の証拠能力も否定されるとしたこと、東京ベッド事件でも、同様の趣旨ですべての自白調書の証拠能力を否定したこと、曲川事件では違法な別件逮捕・勾留中の自白調書の証拠能力を否定したが、本件逮捕・勾留後の自白調書については、事件と被告人らの結びつきが相当程度強いもので、拘束後の取調方法も著しく不当とは認められず、また本件逮捕状の請求にあたり自白調書が重要な資料になつたとは断じ難く、もしもこれがなくても令状発付が不可能ではなかつたと推察され、別件も直ちに不問に付しうるほど軽微ではなかつたなどの事情を認定した上で、その証拠能力を肯定したことが認められる。
(3) そこで本件について検討すると、前記二1(二)に認定した別件逮捕に関する各事実は、警察官の内心の意図に関する部分を除いて、少くとも本件公訴提起当時までに収集された証拠によりすでに検察官において十分に知り、又知ることのできた事実であると認められる。これらの事実によれば、別件の身柄拘束が主として本件の取調べのためであることが推認され、前記各判例や学説の状況に照らしてX1の自白調書の証拠能力が否定されるおそれが十分にあることを知りえたものということができる。それにもかかわらず、検察官において本件自白調書の証拠能力が否定されることはなく、犯罪の嫌疑を十分に立証できると判断したことは、右自白調書の証拠能力の判断を誤つた違法があるものと解される。ただ違法な別件逮捕としながらも、検察官に対する供述調書について証拠能力を肯定した事例、本件逮捕後に作成された自白調書の証拠能力を肯定した事例も前記のとおり存在したのであるから本件逮捕後の自白調書が違法な別件逮捕の影響下に作成されたものではないと評価すべきものであり、検察官に対する自白調書に十分な任意性、信用性が肯定される場合には、本件逮捕後の各自白調書に証拠能力が認められると解される余地がなかつた訳ではない。そこで次に右の点の判断について検察官に裁量の範囲を逸脱した違法があるかについて引続き検討することにする。
(二) 自白調書の証拠価値の評価について
自白調書の内容のうち、その信用性が特に問題とされている以下の諸点について、これが違法な別件逮捕の影響下に作成されたものか、また、その内容に信用性があるかについて検討する。
(1) 殺害の動機について
<証拠>によれば次の事実を認めることができ、これを覆すに足る証拠はない。
(イ) 昭和四八年二月二四日付供述調書では、中古車の軽であれば、一五万円位で買えると聞き、母も都合してくれるだろうと思つて二月二二日午前二時ころ勤務先の原重製陶所のライトバンを無断で持ち出し、母のところへ行き、貸してくれといつたが断られた。帰ろうとしたがもう一度頼んでみようと貸してくれといつたらまた断られたので、ムカァと頭に来て座つたまま左の手拳で母の顔を殴りつけた。殴つてしまつてから、どうしようもない「いつそのこと刺し殺してやろう」と思い炊事場に行つてステンレスの包丁をとりにいつた。しかし母であるから刺すことができず、頭のところを何回かコツンコツンと当てると母がなんでこがんことするとねと必死になるので腰ひもを母の首に巻きつけて両手でしめた。しもうたことをしたと思い、カアさんといつて母の体をゆすつたがぐつたりしたままなので、殺してしまつたと恐ろしくなつた旨供述している。
(ロ) 同月二七日付供述調書では、母のところへ遊びにいくのにバイクでは寒いので母に金をもらつて中古車の軽でも買おうと思い、二月一〇日ころ母に相談したら家を建てているし金の余裕もないからと断られた。それで自分を本当の子供と思つていないと憎く思い、しばらく母のところに遊びにいくものかと思つていたが、自動車が欲しいし、金も欲しいので母の持つている四九万円を何とかして手に入れようと考え、二月二二日午前一時、どうして四九万円をとろうかと考え、第一案は、戸締りを忘れて入れるところがあれば、こつそり入つてとろう、第二案は、入れない場合は母を起こして殴り倒して包丁で殺してから金を探してとろう、最悪の場合は母を殺してもやむを得ないと思い、原重のライトバンをおし出してからエンジンを作動させ母のところへ行つた。戸がしまつていたので第二案で入ることにし、母を殺そうと覚悟した。そして母に金を貸してくれというと母は貸す金はなかといつて追い返そうとするので腹が立つたことと、いつ殴り倒そうかと考えているのがいつしよになつて母を左手の拳でなぐつた。包丁をとりにいつて戻ると両手で眼をおさえていた。刺そうと思つたがさせない。そこで気を失つていないかと包丁で母の顔をコツンコツンと刃の方で叩くと、何するとかとくつてかかつてきたので、こうなつた以上どうしようもない。殺さんと自分が警察に捕まると思い、腰ひもで首をしめた旨供述している。
(ハ) 同年三月七日付供述調書では、二二日午前二時近くになつて軽四輪の金を貸してくれるよう話してみようと思い、原重のライトバンを無断で押し出して二〇メートル先でエンジンをかけ、母のところへ行き、一〇万円ばかり貸してくれ、貸す金はないという問答を続けるうち、カアッとなつて右手で拳をつくりおふくろをなぐつてしまつた。倒れて起き上がらない。次の瞬間には包丁をとりにいき、頭をきりつけ、腰ひもで首をしめた旨供述している。
(ニ) その余のX1の供述調書には動機の記載がない。右の事実によれば、本件殺害の動機が偶発的なものか、それとも計画的なものか、金銭欲に主眼があるのか、それとも母に対する憎しみに主眼があるのかなどその基本的部分において供述が変遷している他、(イ)については、殴打してしまつたので、いつそのこと殺してしまおうと決意したこと、包丁で刺そうとしたのに刺すことができないといいながら包丁の刃で頭を叩き、更に首をしめ殺したこと、(ロ)については、金銭に主眼がありながら、後記のとおり金員を盗取した形跡のないこと、鍵が閉まつているので第二案をとつたというが、とみ宅東側の縁側の窓は施錠されておらず、またX1はとみ宅の鍵を持つていたのであるから金員目的であればとみ在宅中の深夜に行く必要はなかつたこと、(ハ)については、計画性はなかつたというのにかかわらず原重のライトバンをエンジンをかけずに押して持ち出したと供述していること、殴打した後、包丁をとりにいつた動機が不明であり、何故包丁では頭をコツンコツンとやつただけで、腰ひもで殺害したのかの理由も不明であること、また(イ)、(ハ)については計画性がないのに深夜の二時に金を借りる交渉に出かけるということなどいずれも通常の経験則からすれば首肯し難く、納得の行く説明はされていない。(イ)、(ロ)、(ハ)を通じて変わつていないのは、とみの死体の鑑定結果により既に捜査官側で推測していたと思われる犯行の態様のみである。
また右事実によれば、全体として本件殺害の動機は金銭の借入を拒絶されたことに憤激してということになるが、<証拠>によれば、そのようにX1がカッとなりやすい性格であることの裏付けとして検察官が知り得た事実は、雇主にしかられて家に帰つてしまい鍵をかけて出てこないことが二度ほどあつたということに尽き、<証拠>によれば、X1の性格はおとなしく、攻撃的なところは見受けられず、また、被害者との間でも仲違いした様子はなく、被害者本人の本件犯行当時の家計簿には、子供の家よりも春子の家の方が行きやすい旨記載されており、特にX1については触れられておらず、甲は右の子供の家とは貝原の家のことで、その理由は春子のところには姑がいないから行きやすいということだと考えていたことが認められ、以上の事実を総合すると、むしろX1には性格的にも、当時の被害者との関係においても、金銭の借入を拒絶された程度でカッときて被害者を殺害するに至ることを首肯しうるような事情にはなかつたというべきで、前記のような断片的事実のみからX1をカッとなりやすい性格と断定し右自白を信用できるとした判断には誤りがあるといわなければならない。
(2) 本件犯行前後のX1の行動について
右(1)掲記の各供述調書において、部分的には変遷があるものの最終的には、X1は、昭和四四年二月二二日午前二時三〇分ころ被害者を殺害し、午前三時ころ帰宅、同日午前七時には仕事に行き、翌二三日午前一時ころ家を出て被害者の死体を須田川堤に捨て、毛布などを木原部落で焼き、掛布団などを伯山に捨て午前四時ころ帰り、同日午前八時ころ起きて同一〇時ころ子供とパンを買いに行き、同日午後一一時ころ家を出て被害者方に行きマットレスなどを片づけて翌二四日午前一時に自宅に帰り、同日午前六時四〇分ころ伯山に捨てた掛布団などを奥に移動させ、午後一一時すぎ木原部落に捨てた敷布団、毛布などを佐世保市大塔のゴミ焼却場に捨てに行き、翌二五日午前三時ころ帰り、同日午前七時から仕事に出かけたこと、いずれも深夜自宅から抜け出したことは一しよに寝ていた妻であるX2に気づかれてはおらず、また、その際原重のライトバンをエンジンをかけずに持ち出していることを供述していることが認められるが、他方<証拠>によれば、X2は、X1と同じひとつの布団で寝ており、就寝中であつてもX1が布団から抜け出せば、すぐに分かる旨一貫して述べており、深夜に右のようにX1が抜け出した事実を否定していること、また当時、原重の車の管理は十分ではなく夜間X1が持ち出すことは不可能ではなかつたものの、本件のライトバンがあつた場所付近には女中の就寝する女中部屋があり、コリー犬がつながれており、また反対側の原重の製陶工場では深夜かまたきが行なわれており、時には従業員が道路に出て用を足すこともあつたという状況にあり、かつ、X1は右の事情を知つていたことが認められ、しかも右供述を裏付ける物証は何も発見されていないことは前記のとおりであり、右の事情を総合すると例えエンジンをかけずに押し出したとしても、連日にわたり、X1が右のごとき行動に出たという供述は、たやすく信用することはできないもので合理的な疑いを容れざるを得ないものというべきである。
(3) 本件犯行の態様について
前(1)掲記の各供述調書によれば、犯行場所、具体的行為態様について次のとおり供述の変遷がある。すなわち、当初は、母が寝ている座敷の枕元で座つたまま、左の拳で母の顔をなぐり、炊事場からステンレスの包丁を持つてきてコツンコツンと頭にあて、腰ひもを五回位母の首にまきつけ、母の胸に膝をのせて、両手でひいた(昭和四八年二月二四日付)と述べていたが、その後は、コタツのある部屋で立つたまま母の顔を力いつぱい殴りつけ、気を失つていまいかと包丁の刃で二、三回母の頭をコツンコツンとたたく(同月二七日付)と変わり、コタツの部屋で立つたまま殴つたのが本当であると確認し(同月二八日付)、その後一度否認した後は、殴つたのは右手が本当であると訂正し(同年三月六日付)、最後に包丁に「松岡」の名がたぶん入つていたこと、絞めたあととみを布団の上に動かしたことを付け加えている(同月七日)。
他方、<証拠>によれば、被害者の死体の鑑定書には、前頭、頭頂部の切割創二コ(創)と後頭部の切割創六コ(創)とは、有刃性のもので、ある程度の重みのあるものと推定される刃器によつて成傷され、成傷時の本屍の体位は、立位よりも臥位あるいは坐位の方が考えやすいこと、創が創や絞頸よりも先と思われるが、創と絞頸の前後関係は明らかでないことが記載されていること、右記載に基づき、昭和四八年二月一九日付捜索差押許可状請求書の被疑事実にはとみ方座敷六畳間に就寝中の同人頭部を刃物で切りつけ顔面を手拳で殴打する等の暴行を加え、さらに紐のようなもので頸部を強く締めあげ殺害した旨記載され、また同月二一日朝までに作成されたポリグラフ検査のPOT(7)の質問番号3には「右目あたりを殴り刃物で頭部に切りつけ、首をしめて殺した」旨の記載のあること、本件犯行当時県警本部捜査一課特捜班長小森恒臣は、傷の状態から成傷器はうす刃の包丁ではないかと推定し、とみ方にあつた包丁類を捜索したが、ルミノール反応は陰性であつたこと、甲は昭和四八年三月一日藤井検事に対し、とみ方には本件当時魚用の包丁、薄刃の柄のない包丁、「松岡」と彫られた包丁の三本があつたが、いずれもステンレスではなく鉄製で薄くさびていた旨供述していること、警察は殴打された顔面の部位、程度から犯人は左利きではないかと推定していたこと、甲も江島操からの伝聞でX1は左利きではないかと考えていたこと、藤井検事は、包丁を洗えばルミノール反応が出ないこともある旨の報告を得ていたことが認められる。
以上の事実を総合すると当初の供述内容は、ほぼ捜査側が予測していたとおりの内容となつていること、殴打した場所と姿勢が基本的に変更されたこと、X1が藤井検事に警察は右手で殴つたと言つても信用してくれなかつたと述べてからは左手拳を右手拳に変更していること、包丁により頭部を傷害する動機が判然とせず、かつ、客観的事実に符合しないこと(二、三回コツンと叩いても鑑定のごとき八か所もの傷はできないし、生活反応の差異も生じないはずである)、甲がとみ方には「松岡」の名入りの包丁があり、いずれもステンレス製ではない旨を供述してから後では、供述の中からステンレスの文字が消え、「松岡」の名入り包丁が現われていることなどの事実が認められ、これらの事実に鑑みるとき本件犯行態様の自供についてもその信用性に合理的疑いを容れる余地があつたといわねばならない。なお藤井検事は、X1が、否認した際にも、自分は警察で右手で殴つた、マットレスを玄関の土間に移動させたと述べたが、いずれも信じてくれなかつた旨述べたので右二つの事実は真実だと思つたというのであるが(同人の証言)、そもそも全面否認しているのにかかわらず、右手で殴打した、マットレスを移動させたと述べることはありえず、要するに警察では、取調官のいうことと異なる事実を述べても取上げてもらえなかつたことがあるという趣旨で供述しているものと推認するのが経験則に沿うものであつて、右事実から、右手で殴打し、マットレスを移動させたことは真実であるという心証形成をするのは、経験則、論理則に従うものとはいい難い。
(4) 本件犯行後の証拠隠滅行為について
前(1)掲記の各供述調書によれば、X1は、被害者殺害後、翌二月二三日午前一時ころ死体、寝具・衣類をライトバンに積んで運び出し、須田川堤に死体を捨て、木原部落の先に車をとめ、川をわたつた向こう側の山で長着とトッパーを焼き、敷布団、毛布を隠して車に戻り、捨て忘れた掛布団、寝巻き、白足袋を養鶏場(当時造成地)で電気毛布に包み、伯山の道端に捨てたこと、そして二三日午後一一時ころ被害者宅に戻り、マットレス、電気毛布、枕を移動させ、二四日午前六時四〇分ころ、伯山に捨てた包みをかついで五ないし六〇メートル先に掛布団を捨て、それから一〇メートル位の地点に白足袋と電気毛布のカバーを捨てたこと、二四日午後一一時すぎには原重からダンボール一〇個を持つて木原山中に行き毛布や敷布などをちぎれるものはちぎつてダンボールに詰め、佐世保市大塔の市営焼却場に行き、柵をわたつてゴミの山に捨て、更に一週間位して白足袋、電気毛布をとりに行き、原重のゴミ捨場で焼却したことを自供しているところ、<証拠>によれば次の事実が認められる。
(イ) 昭和四四年二月二五日甲は、捜査官に対し、被害者方から紛失したものは掛布団一枚、毛布二枚、丹前(トッパー)一枚、敷布団一枚、電気毛布のカバー一枚、枕カバー一枚、普段着、帯、白足袋、ガマ口財布(二ないし三〇〇〇円在中)であると述べていたこと
(ロ) X1が木原山中で渡つたと述べた川については、昭和四四年一月一〇日から三月一七日ころまで井堰作りの工事が実施されており、同年二月二三日ころは左岸の工事が終了し右岸の工事にかかる段階で、右工事のころ川の水は三〇センチメートル位の深さで歩いて渡ることは可能であつたこと(三月七日付)
(ハ) 木原部落を抜けてからは、一本道であり、道幅も狭く、途中でユーターンすることは困難であること
(ニ) X1が荷造りをしたという養鶏場は、昭和四三年三月中ころ今泉兄弟から池田周作が借り受け営業しているもので、同年四月末から五月初めに住家、鶏舎を建てるまでは、宅地造成中のような状況であつたこと(三月四日付)
(ホ) 今泉善次郎は、昭和四四年二月二三日朝七時一五分ころ、伯山の道路の下に白い長方形の包みのようなものを発見し、子供を捨てたんじゃないかと思つて見ていたが、翌日朝六時四〇分ころに見るとその包みがなくなつていたこと、右今泉の報告に基づき、付近一帯を捜索したが、奥は雑木林が生繁り進むことができず何も発見できなかつたこと、その後、本件の掛布団と思われるものが発見されたが、右発見場所に行けるような道は発見されてはいなかつたこと
(ヘ) 渕上時次は昭和四四年二月二三日朝から被害者方で工事をしていたが、水を使うため午後二時ころ南側縁側のガラス戸から中に入り炊事場まで行つて戻つたが、その際玄関の東側の部屋にはマットレス、電気毛布などは置かれていなかつたが、同月二五日甲が被害者宅に入つたときには、玄関の東側の部屋にマットレス、電気毛布などが置かれていたこと
(ト) 大塔清掃工場では、昭和四二年当時から無断持込防止のため、門柱と門柱との間に重いくさりを二重にはつてあつたが、昭和四四年一一月に鉄製の門扉に変更されたこと
(チ) 被害者と同程度の大きさの人形を、本件犯行に使用さたとされているライトバンと同型の車両に積む実験をした結果、斜めにしないと足がはみ出ることが判明したこと(三月六日付)
(リ) X1を取調べた鳥井警部補は、X1が真犯人であると考えていたが、佐世保の大塔まで捨てに行つたなどの個々の事実については必ずしも信用しておらず、六〇パーセント程度の調書と認識していたし、藤井検事も大筋が合つていればよいと考え、細かいところはX1が述べるとおりに調書をとつたこと
以上の事実を総合すると、X1の供述後に判明した事実は、(ハ)、(ニ)、(ト)、(チ)の四点であり、そのうち(ハ)については、昭和四八年二月二四日最初に自供した時には捨て残しを発見したのは木原部落に入つてからとなつており、元のとおろへ捨てに戻らなかつた理由については特に触れておらず、同日午後、現場確認に行つた後である同年三月七日になつてはじめて発進して一〇メートル位進んでから布団を発見したが、狭い道で方向転換するところがないのでほかに捨てようと思つた旨述べており、したがつて右の点は右供述の信用性の裏付けとはならないこと、(ニ)については、池田周作が土地を借りて鶏舎を建てたのは昭和四三年のことであり、犯行当時造成中であつた旨の前記X1の自供の裏付けとはなつていないこと、(ト)についてはX1は「柵」と供述しているのに対し実際にあつたのは「くさり」であり、事実にくい違いがあり、しかもその途中には早岐の検問所があり取調べにあたつた警察官でさえ右供述を信用していなかつたこと、(チ)については、X1及び捜査官は被害者の身長及びライトバンの後部出入口の幅は十分に認識しており、また被害者は老人とはいえ冬期であるから捜査官としては、右死体搬出当時死体硬直が継続していたと推認するのが通常であり、そうすると、どうしても斜めにする必要が客観的に要請されることがそれぞれ認められ、そうするとX1の右供述の信用性を担保するものとしてはいずれも十分とはいい難い。
(5) 本件自白を裏付ける物的証拠について
<証拠>によれば、X1の自供に基づき新たに発見された物証は何ひとつとして存在しないことが認められる。
以上のとおり、X1の自白調書については、殺害の動機、本件犯行前後の行動、本件犯行の態様、本件犯行後の証拠隠滅行為の各事実については、いずれもその信用性に乏しく、またその内容は、結局において昭和四八年二月二四日付供述調書を詳細にしたものに過ぎず、したがつて違法な別件逮捕中に作成された供述調書と区別し、特に信用すべき事情があるとは到底認められず、そうすると、前記のとおり、その後のX1の自白調書につき証拠能力及び信用性を認めた検察官の判断には裁量権の範囲を逸脱した違法があつたというべきである。
(三) 情況証拠についての評価の誤りについて
次にX1の自白調書を除く証拠だけでX1に対し有罪判決を得る見込みが十分あつたか否かにつき検討する(X1と本件犯行とを結びつける直接証拠はなく、本件自白に基づいて新たに発見された物証の存しないことは前示のとおりであるから、以下情況証拠について検討することにする。)。
(1) 殺害の動機について
<証拠>によれば、X1は被害者と三〇数年ぶりに親子の対面をした後、三六歳にもなり妻子があるのに、甲らから生活の援助を受けていたさほど豊かではない被害者から毎月数千円の小遣いをもらい、バイクの購入資金なども受取つていたこと、また昭和四三年六月ころテレビの購入代金を要求し被害者に断られると被害者方をしばらく訪れなくなるなど打算点な行動がみられること、本件犯行当時X1は中古自動車を買いたいと考えており、他方被害者が四九万円の現金を所持していることを知つていたことなどの事実が本件公訴提起当時明らかになつており、検察官は、右事実からX1と被害者との間に金銭的トラブルが生じ、それが被害者殺害の動機となりうると考えたことが認められる。
しかし、<証拠>によれば、捜査本部は、外部侵入の形跡がなく、寝具が整理され外出を装つた形跡があり、死斑の状況から少なくとも被害者方に二度以上犯人が出入りしていること、被害者が少なからぬ現金を持ち、家の新築等をめぐり金銭問題のあつたことなどから、次第に親族、知人の犯行との見方を強め、とみ殺害の何らかの動機を持ちうる近親者八名ほどをリストアップし、ポリグラフ検査を実施した結果、甲とX1に陽性反応が出て、他はすべて陰性であつたことなどから嫌疑は右両名に絞られたこと、そして更に甲については、本件犯行が女性単独では不可能であり、甲の夫は本件犯行当時入院中で、他に共犯者たるべき者がなかつたことから容疑が薄れ、X1に絞られたことが認められるところ、昭和四四年四月二四日に実施されたX1に対する右ポリグラフ検査結果(乙第一五三号証)を見る限り、前記のとおりその質問の構成について信頼性に乏しく、右ポリグラフ検査結果に基づきX1に嫌疑を絞つたことには多大な疑問を持たざるを得ず、またX1の動機が前記のようなものであるとすれば、犯行当時被害者方にあつた現金四九万円等の金銭が盗まれていてしかるべきところ、捜査官は犯人は二回以上被害者方に入り、外出したように装つたと見ており、金銭を物色し持ち出す時間的余裕は十分にあつたはずであるにもかかわらず、これが盗まれてはいないこと、その後被害者の財産は甲が取得し費消していることなどからすると、むしろ前記のようなX1の動機と本件犯行との結びつきは弱いものと判断せざるを得ない。
(2) 被害者宅の鍵の所持について
X1が本件発生当時被害者方玄関の鍵を所持し、被害者方に容易に出入りできる状況にあつたことはX1と被告国との間に争いはなく、X1と被告佐賀県との間では<証拠>によつて、これを認めることができる。そこで、この事実がX1と本件犯行を結びつける資料となりうるかについて検討すると、<証拠>によれば、被害者は一寸外出するときなどはいつも縁側のガラス戸の鍵を開けたままにしていたのであり、被害者方に間借りをしていた松本保や被害者方で工事をしていた渕上時次は、昭和四四年二月二三日ころ表側の縁側のガラス戸から被害者方に出入りしており、また、甲も同月二五日表側の縁側のガラス戸から中に入つていること、そして昭和四八年二月一八日当時、捜査当局は、犯人は表又は裏の縁の無締りのガラス戸から侵入したと考えていたことが認められ、そうだとすれば、X1が被害者宅の玄関の鍵を所持していたことは本件犯行とX1とを結びつける上において積極的なものを付加する証拠とはならない。
(3) 被害者殺害時後のX1の行動について
X1が昭和四四年二月二三日朝藤瀬春子方にパンを買いに行つた際、同女に対し、また同日昼ころ佐世保の百貨店で偶然甲に会つた際、同女に対し、それぞれ被害者の所在を尋ねるような話をしたこと、被害者の行方不明が明らかになつた同月二五日、X1が病院やタクシー会社に行つて被害者の行方を尋ねたこと、被害者の死体が発見された同月二七日発見現場に来たX1の嘆きが外見上は異常に激しかつたこと、検察官はX1の右各行動が不自然であつて、X1が本件犯行の発覚を免れるためにとつたものであると判断したことは、いずれもXと被告国との間に争いはなく、証人藤井俊雄の証言及び弁論の全趣旨により、Xと被告佐賀県との間で、これを認めることができる。ところで右各行動が論理則、経験則に照らして不自然なものかどうかを検討すると、<証拠>によれば次の事実を認めることができる。
(イ) 前記のとおりX1が藤瀬春子に対し被害者の行方を尋ねた時に述べたのは、カーテンが閉まつていたからという程度の理由で特に心配すべき特段の事情があつた訳ではなく、また甲はX1の質問に対し佐賀にでも行つてるんでしようと答えており特に心配する様子もなく、一言、二言ことばを交しただけでいずれも済んでいること
(ロ) X1が被害者が行方不明であることがはつきりした二五日に共立病院に行つた際、X1は、壁に血が飛んでいたので怪我か何かで入院しているのではないかと思つて来た旨述べており、またつぼみタクシーの事務所に行つて被害者を乗せたことはないかと尋ねた時のX1は、被害者のことを心配している様子で、分かつたら知らせて欲しい旨述べて帰つていること、右各事実について関係者の供述調書が作成されたのは、いずれも昭和四四年の九月であること
(ハ) 死体発見時のX1の状況について、乙は、顔を両手でおおつて泣いているようだつたが声は聞こえなかつた、すごくという程ではなく悲しんでいる様子だつたと述べ、丙も立つて声をあげて泣いていたというだけで、それ以上のことは述べていないこと
以上の事実によれば、二三日X1が母親がいないということで軽い不安を抱き、家の中まで確認にいく必要までは感じることなく、偶然あつた被害者の居所を知つていそうな二人に対しちよつと尋ね、二五日被害者宅に血痕が発見されてからはとても心配になり病院やタクシー会社に尋ねて行き、更に二七日死体が発見されることにより悲しみのために、立つて両手で顔をおおい、遠くからは聞こえない程度の声で泣いていたという事実を推認することができ、そうすると、これらの事実は親子の間柄であれば、極めて自然の行動とみることも十分に可能であつて、これらをもつて、殊更に怪しげな証拠隠滅臭い行動とみること即ち、本件犯行とX1との結びつきを疑わせる不自然な行動と断定することはできないものというべきである。
(4) ポリグラフ検査結果と掛布団の発見について
検察官がX1に対するポリグラフ検査の結果が本件犯行に関する質問部分において陽性反応を示していること、被害者宅から搬出されたと認められる掛布団がX1宅の近くで発見されたことをそれぞれX1の本件犯行を裏付ける有力な資料の一つであると判断したことはXらと被告国との間に争いがなく、Xらと被告佐賀県との間においては<証拠>によつて右事実を認めることができる。ところで右ポリグラフ検査結果については前記二、3、(三)記載のとおり、信用性が極めて低いものであり、一般にポリグラフ検査結果を被疑者と犯行とを結びつける有力な証拠の一つとして評価する場合には、検察官としては、何故右ポリグラフ検査結果が右結びつけの証拠となりうるのかを一問一問検討し、その合理性を確認しておく必要があるのにかかわらず、これを怠り(証人藤井俊雄の証言からは右確認をした事実は認められず、先に説示したところから推せば、逆に何故信頼できるかを追求していれば、信用性の低さはおのずから明らかとなつたはずである)、一般論から信用できると判断し、これを結びつきの重要な証拠と評価したことは、証拠の評価において誤りがあるというべきである。また伯山から発見された掛布団が、当時の捜査資料から被害者のものであると認定したことに誤りがあるとは認められないとしても、ただこれが近隣の山から発見されたということだけでは本件犯行とX1との結びつきを強める証拠とは必ずしもなしえない(むしろ、犯人としてはなるべく自分の家とは離れたところに捨てるということも考えられる)のであつて、これを有力な証拠とみるのは、必ずしも合理性があるということはできない。
(5) <証拠>によれば、本件公訴を提起した藤井検事は、もしX1の自白調書の証拠能力が否定されれば、情況証拠だけで有罪判決を得ることは困難であろうと考えていた事実を認めることができる。
以上の事実を総合すると、本件公訴提起時における情況証拠のみによつてX1に対し有罪判決を得る見込みが十分あつたとはとうてい認められない。
3 以上のとおり、検察官には、勾留期間満了までX1の身柄を拘束したことについては裁量の範囲を逸脱した違法は認められないものの、その後同人を本件で起訴し、これを維持して身柄を拘束し続けたことについては、合理的な裁量の範囲を逸脱した違法があり、かつ、検察官の過失に基づくものと推定され、本件公訴を提起した検察官が被告国の公務員であり、その職務行為として本件の起訴・公訴の維持をなしたことは当事者間に争いがないのであるから、被告国は、国家賠償法一条一項に基づきX1の被つた損害につき賠償する責任がある。
四損害
ところで前記警察官及び検察官の各違法行為は、客観的に関連共同しており、したがつて被告国と被告佐賀県は、これによつて生じたX1の損害につき、連帯してその賠償の責に任ずべきである。そこで以下検討する。
1 逸失利益について
<証拠>によれば、X1は、昭和四八年二月当時原重製陶所に勤務していたものであるが、昭和四八年二月二一日別件により逮捕されて以来、昭和五一年三月二二日第一審判決の言渡までの期間身柄を拘束され、釈放後も三年間の拘禁生活の疲れから同年四月一八日まで稼働できなかつたこと、もし右身柄拘束がなければ、X1は右原重製陶所に継続して勤務し、別表(4)給与等一覧表記載の賃金を受領することができたことが認められ、他にこれを覆すに足る証拠はなく、右の事実によれば、原告主張どおり合計四七〇万一三三三円の逸失利益(請求原因6(一))が認められる。
2 慰謝料について
(X1について)
<証拠>を総合すると、本件はX1を有罪にするだけの確たる証拠がなかつたのにかかわらず、X1が真犯人に間違いないとの信念の下で、たまたま発見された日本刀の不法所持の事実を敢えて本件に関連づけることによつて違法な別件逮捕との評価を潜脱しようとしたものであり、また捜査報告書には重要な点において虚偽ともいえる作為が施されている他、信用性の極めて低いポリグラフ検査結果をつきつけて自白を迫り否認が虚偽であるとの確信の下で深夜の一二時すぎまで自白を迫つたことは、いずれもその行為態様において違法性が顕著であること、その結果X1は約三年間にわたり妻子と離れて拘禁生活を余儀なくされ、逮捕後、無罪判決が言渡されるまでの約三年間にわたり、母親殺しの犯人と報道され、取扱われてきたことが認められ、右の各点及び諸般の事情を総合すると被告らの各違法行為によつてX1が被つた精神的苦痛を慰謝するには金七〇〇万円が相当である。
(X2について)
ところで、本件不法行為は直接的にX1に対しなされたものではあるが、本件のX1の身柄拘束と殺人罪による公訴の提起により、夫であるX1と長期間隔離され、幼ない子供二人を抱えるかたわらX1を物心両面にわたつて支え続ける生活を余儀なくされたこと、殺人犯の妻としての汚名をきせられたことなど同人の妻たる立場において、独自の精神的苦痛を受けていたことが<証拠>により認められ、右苦痛は、X1の無罪判決が確定したこと、X1の財産的、精神的損害に対する賠償がされたことによつて、その損害が回復されるということはできず、X2はX1とは別個独立にその精神的苦痛に対する慰謝料を加害者たる被告らに請求することができると解すべきである。そして本件の前記認定の各事実関係からすれば、右慰謝料として金一〇〇万円が相当である。
3 弁護士費用について
<証拠>によれば、X1は、三名の弁護士に対し、本件の刑事事件の弁護を依頼し、第一審の着手金として昭和四八年五月八日に金九〇万円、同謝金として昭和五一年四月一三日に金一二〇万円、控訴審の着手金及び謝金として昭和五二年一一月一六日に金一五〇万円をそれぞれ支払つたことが認められるところ、本件事案の重大性、弁護活動の必要性、困難性その他諸般の事情を考慮すると右金額の全額が前記各捜査官の違法行為と相当因果関係ある損害と認めるのが相当であり、被告らは右金額合計金三六〇万円から刑事裁判費用の補償として交付を受けた金一三五万〇四六八円を控除した残額である金二二四万九五三二円につき、X1に対し賠償する責任がある。
4 X1が刑事補償法一条、四条に基づき刑事補償として金三五九万三六〇〇円の交付を受けたことは当事者間に争いがない。
5 まとめ
以上のとおり、被告らの違法行為によつてX1が被つた損害は、前記1、2、3の合計額一三九五万〇八六五円から4の三五九万三六〇〇円を控除した金一〇三五万七二六五円、X2の被つた損害は金一〇〇万円となり、いずれもX1に対する無罪判決が確定した昭和五二年六月一四日以前に発生した損害と認められるから(弁護士費用のうち控訴審での着手金及び謝金をX1が実際に支払つたのは昭和五二年一一月一六日であるが、右判決確定によりX1の支払うべき金額が確定し、その履行期が到来したものと認められる)、右各金額に対する遅くとも同日以後支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があることになる。
五結論
したがつて原告らの請求は、被告らに対し、それぞれX1が金一〇三五万七二六五円、X2が金一〇〇万円、および右各金額に対する昭和五二年六月一四日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行とその免脱の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(綱脇和久 簑田孝行 大塚正之)
(別紙(一))
公訴事実の要旨
(本件)
被告人は、
第一 昭和四四年二月二二日午前二時三〇分ころ、佐賀県西松浦郡○○町〇〇〇七八四番地の実母松岡とみ(当時六〇年)方を訪れ、同女に「車を買いたいので金を一〇万円ほど貸してくれ」と頼んだが同女からすげなく断わられ、さらに貸してほしいと頼んでみたが「貸せない」との返事を繰り返されるに及んで激昻し、いきなり右手拳で同女の右顔面を殴つて同女をその場に倒し、次いで、突嗟にかくなつたうえは同女を殺害するもやむなしと決意し、同家炊事場にあつた包丁を持ち出し、同女の頭部に数回切りつけ、さらにその場にあつた腰紐を同女の頸部に巻きつけこれを交叉し、その両端を両手で握りながらこれを強く締めて頸部を締めあげ、よつて同女を即時、同所において窒息死に至らしめて殺害し、
第二 事件の発覚をおそれて同日午後一一時すぎごろ、前記松岡とみ方に至り、同女の死体を自動車に乗せ、これを長崎県○○市○○町三二五番地の須田川堤まで運んだうえ、翌二三日午前零時ころ、同所の溜池中に投棄し、もつて右死体を遺棄し
たものである。
(別件)
被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和四八年二月二一日午前九時ころ、佐賀県西松浦郡○○町〇〇三五六四番地自宅において、刃渡り65.5糎の日本刀一振を所持したものである。
(別紙(二))
第一審判決要旨
1 捜査官は、日本刀の不法所持罪(別件)については逮捕の必要性がないか、又は逮捕翌日には必要性がなくなつたのに、同罪の逮捕による身柄拘束状態を違法に継続し、これを利用して、専ら、いまだ逮捕状を得るだけの資料のない殺人、死体遺棄事件(本件)につき被告人(X1)を取調べたものであるから右取調べは違法である。
2 右取調べの違法性の程度はこの種別件逮捕による取調べの類型の中でも最も大きなものであつて、他の事情を考慮するまでもなく、右自白に基づいて作成された被告人(X1)の司法警察員に対する昭和四八年二月二四日付供述調書は証拠能力がない。
3 捜査官は、前記違法収集にかかる自白調書を疎明資料として殺人、死体遺棄罪(本件)につき逮捕状、続いて勾留状を得で身柄拘束を継続し、右身柄拘束期間中に被告人(X1)の司法警察員(五通)及び検察官(六通)に対する各供述調書、検察官作成の実況見分調書、裁判所書記官作成の被疑者陳述録取調書の被告人の供述部分、押収してある録音テープ五巻の各証拠を収集したものであるところ、かかる違法な別件逮捕に引続く本件逮捕、勾留は違法な身柄拘束であり、その間に収集した被告人の供述調書等は原則として証拠能力を有しない。
4 右本件の逮捕、勾留が違法な別件逮捕によつて得た証拠がなくても認められた場合、あるいは本件逮捕、勾留中に得た被告人の供述調書等が実質的にみて違法な別件逮捕によつて得た証拠に基づかず、又はその影響が排除された状況下で作成されたと認めうる特段の事情の存する場合には、別件逮捕中に作成された証拠の違法を引継がず、証拠能力を認めうることがあるが、本件逮捕、勾留は前記違法収集証拠である被告人の司法警察員に対する昭和四八年二月二四日付供述調書の存在によつて初めて認められたものであり、右逮捕、勾留中に得た前記各証拠が右供述調書の違法を引継がない特段の事情は認められず、いずれも証拠能力を有しない。
5 前記証拠能力のない自白調書等を除いた情況証拠によつて認められた事実を総合すると、当裁判所は、被告人が犯人ではないかとの疑を持つものであるが、これのみをもつてしては未だ被告人が犯人であると断定するに足らず、前記のとおり被告人の自白調書は証拠として採用することができないものであり、他に被告人と犯行を結びつけるに足る証拠がないので、被告人が犯人であるとの確信を抱くには至らず、結局本件については犯罪の証明がないことに帰するから、被告人に対し無罪の言渡しをする。
(別紙(三))
第二審判決要旨
1 一般に甲事実(別件)による逮捕中の被疑者を乙事実(本件)について取調べることが許されるためには少くとも甲事実についての逮捕自体が実質的な要件、即ち逮捕の理由及び必要性を具備していることが必要である。
2 本件の場合、被告人(X1)に対する別件逮捕の必要性は、日本刀が本件成傷器たる可能性があるという意味での本件との可能性にのみ依存しているものであるところ、右関連性は極めて稀薄であり、しかも右関連性は、別件逮捕時に近接して、日本刀に対するルミノール反応が陰性である旨の検査結果が顕われて一応否定されたにもかかわらず、なお右逮捕は継続され、逮捕期間中、形式的には別件についての取調べがなされたとはいえ、実質的にはその殆んどが本件についての取調べに利用されていることなどからすると、別件逮捕は、本件の取調べに利用する意図のもとになされ、これを覆うために日本刀の本件成傷器としての極めて稀薄な可能性を過大評価して表面上の理由にかかげたものと推断されても止むを得ないというべく、従つて、別件逮捕は必要性の点でその実質的要件を欠いた違法のそしりを免れず、このような違法な逮捕による身体の拘束下において、これを利用して本件についての取調べをすることは、別件について取調べることとともに違法なものといわざるを得ない。
3 別件逮捕が違法な場合、その間に得られた本件に関する自白は、それが任意捜査としての諸要件を備えた取調べによることが明らかにされない限り、令状主義を潜脱するものとして、証拠能力を否定されるのが至当であると考えられ、その限りにおいて真実発見の要請も捜査の利益も適正手続の要請に一歩を譲る結果となつても止むを得ない。叙上の理に照らせば、本件自白調書の証拠能力は否定すべきものである。
4 本件逮捕、勾留請求及びこれに対する裁判官の認容の根拠となつた資料の中で最も主要なものは本件自白調書であり、本件逮捕、勾留理由の存在は専ら本件自白調書に依存している。従つて本件自白調書の証拠能力が否定される限り、それはもはや本件逮捕、勾留の実質的要件の存否を審査する資料となり得ず、これを除いた他の資料のみをもつてはいまだ被告人を本件について逮捕、勾留する理由づけとはなし得ないので、本件逮捕、勾留もまた違法である。従つて、本件逮捕後における自白調書等は違法な逮捕、勾留中の取調べによるものとして、本件自白調書におけると同様の理由により証拠能力を否定されることになる。
5 以上のとおり、被告人の自白を内容とする供述調書はすべて証拠能力がないので排除されるべきところ、右以外の証拠を仔細に検討してみても、被告人が所論の犯罪を犯したことを認めるに足る証拠は見当らない。またこれらの証拠だけでは、これを綜合してみても、たかだか被告人が犯人であつても矛盾しないという消極的な意味での情況証拠に止まる。
6 叙上のとおりであるから、原判決の被告人が本件犯罪を犯したと認めるべき証拠がない旨の結論は正当である。
(別紙(四))<省略>
別表(2)
昭和44年4月22日のポリグラフ検査
POT(1) 犯人について (○印は裁決質問を指す)
質問事項
返答
反応
1
精神異常者の仕業か知つていますか
いいえ
-
2
強盗に入つた者の 〃 〃
〃
-
③
あなたがやつてかくしていますか
〃
+
4
あなたの知つている人の仕業と思いますか
そう思います
+
5
今尋ねた以外の人の 〃 〃
いいえ
-
POT(2) 犯人の人数について
質問事項
返答
反応
1
女1人でやつたか知つていますか
いいえ
-
2
男1人で 〃 〃
〃
+
3
男と女が組んで2人で 〃 〃
はい
+
4
3人組で 〃 〃
いいえ
-
5
4人以上で 〃 〃
〃
-
POT(3) 2月21,22,23,24日の行動について
質問事項
返答
反応
1
あなたは佐世保の病院に行つたと思いますか
いいえ
-
2
〃 ○○市内え 〃
〃
-
3
〃 松岡とみさんの家の中に入つたこと〃
〃
+
4
〃 ○○町に映画を見に行つたと 〃
〃
-
5
〃 とみさんの屍体を捨てに堤に行つたと〃
〃
++
POT(4) とみさん方のマットレスについて
質問事項
返答
反応
1
マットレスは押入れの中にあつたと思いますか
いいえ
-
2
〃 二階においてあつたと 〃
〃
-
3
〃 あとであなたが動かしたと 〃
〃
++
4
とみさんはマットレスは持つていなかつたと〃
〃
-
POT(5) 布団の処分について
質問事項
返答
反応
1
布団は山の中にかくしたか知つていますか
いいえ
-
2
〃 川か海の中に捨てたか 〃
〃
±
3
〃 何処かで焼いてしまつたか 〃
〃
±
4
〃 地の中に埋めたか 〃
〃
±
5
〃 今尋ねた以外の方法で処分したか 〃
〃
-
POT(6) 屍体の運搬について
質問事項
返答
反応
1
タクシーに乗せて運んだか知つていますか
いいえ
-
2
リヤカーに乗せて 〃 〃
〃
-
3
あなたの会社の車であなたが運転して 〃 〃
〃
++
4
あなたの知つた人の車で 〃 〃
〃
±
5
今尋ねた以外の車で 〃 〃
〃
-
POT(7) 凶器の種別について
質問事項
返答
反応
1
日本刀のようなものでやつたか知つていたすか
いいえ
-
2
ナイフの 〃 〃
〃
±
3
包丁の 〃 〃
〃
±
4
カミソリの 〃
〃
-
5
今尋ねた以外の刃物で 〃 〃
〃
-
POT(8) 凶器の出所について
質問事項
返答
反応
1
附近の不良が持つて来た刃物でやつたか知つていますか
いいえ
-
2
精神異常者が 〃 〃
〃
-
3
あなたの家から 〃 〃
〃
++
4
あなたの知合いの家から 〃 〃
〃
-
POT(9) 動機について
質問事項
返答
反応
1
痴情関係のもつれからやつたか知つていますか
いいえ
-
2
友達仲間の喧嘩から 〃 〃
〃
-
3
金銭関係や土地,家,財産のもつれから 〃 〃
〃
++
4
単なる物盗りの仕業か 〃
〃
-
5
今尋ねた以外の理由でやつたか 〃
〃
-
CQT
質問事項
返答
反応
1
あなたはX1さんですか
はい
-
2
〃 ○○町に住んでいますか
〃
-
③
〃 とみさんが行方不明になつていることは
人が騒動する以前から知つていましたか
いいえ
++
4
〃 旅行するのは好きですか
〃
-
⑤
〃 松岡とみさんを殺した覚えがありますか
〃
++
6
あなたは人が大変迷惑するようなウソを平気で云いますか
いいえ
+
7
〃 パチンコはやりますか
〃
-
8
〃 今迄他人に傷をつけたことがありますか
〃
+
⑨
2月21日頃松岡とみさんを殺したのはあなたですか
〃
++
10
あなたは今度の事件で本当のことを知りながら,
わざとかくしていますか
〃
+
(○印は関係質問を指す)
++……顕著な特異反応を認められる
+……特異反応を認められる。
±……わずかに特異反応を認められる。
-……特異反応を認められない。
別表 (3)
昭和48年2月21日のポリグラフ検査
POT(1) 犯人について (○印は裁決質問を指す)
質問事項
返答
反応
1
精神異常者のしわざか知つていますか
いいえ
-
2
強盗に入つた者の 〃 〃
〃
-
③
あなたがやつてかくしていますか
〃
+
4
あなたの知合の人がやつたか知つていますか
〃
-
5
今尋ねた以外の人のしわざか 〃
〃
-
POT(2) 発見された布団について(その1)場所的認識
質問事項
返答
反応
1
(1)の場所から発見されたかあなたは知つていますか
いいえ
-
2
(2) 〃
〃
-
③
(3) 〃 〃
〃
±
4
(4) 〃 〃
〃
-
POT(3)
発見された布団について(その2)場所の状況について
質問事項
返答
反応
1
杉林の中に捨てたかあなたは知つていますか
いいえ
-
2
松林の中に捨てたかあなたは知つていますか
いいえ
-
③
雑木林のヘゴの中に 〃 〃
〃
±
4
檜木林の中に 〃 〃
〃
-
POT(4) 発見された布団について(その3)捨てた犯人について
質問事項
返答
反応
1
古物屋が勝手に捨てたと思いますか
いいえ
-
2
山の持主がそこに捨てたと 〃
〃
-
③
あなたが布団を運んでその場所に捨てましたか
〃
+
4
あなたの知合の人がそこに捨てたと思いますか
〃
-
5
今云つた以外の人が 〃 〃
〃
-
POT(5) 発見された布団について(その4)
布団の柄模様について
質問事項
返答
反応
1
1番の柄模様だつたかあなたは知つていますか
いいえ
-
2
2 〃 〃
〃
-
③
3 〃 〃
〃
±
POT(6)
発見された布団について(その5)
布団が最初の場所(被害当時)から移動していることについて
質問事項
返答
反応
1
山の持主が移動させたかあなたは知つていますか
いいえ
-
2
古物屋が 〃 〃
〃
-
③
あなたが移動させて発見された場所に捨てましたか
〃
+
4
あなたの知合の人が移動させたか知つていますか
〃
-
POT(7) 犯行の手段,方法について
質問事項
返答
反応
1
被害者の首筋を切つてから頭を棒で
殴り殺したか知つていますか
いいえ
-
2
〃 腹を刃物で刺殺したか 〃
〃
-
3
〃 右目あたりを殴り,刃物で頭部に切りつけ,
首をしめて殺したか 〃
〃
±
4
〃 今云つた以外の方法で殺したか 〃
〃
-
POT(8) 屍体の運搬について(その1)使用した車について
質問事項
返答
反応
1
犯人は自分所有の車で屍体を運んだか知つていますか
いいえ
-
2
〃 会社の車を運転して 〃 〃
〃
-
3
〃 知合から借りた車を運転して〃 〃
〃
+
4
〃 今云つた以外の車を 〃 〃
〃
-
POT(9)
屍体の運搬について(その2)運搬した員数について
質問事項
返答
反応
1
1人で運んだかあなたは知つていますか
いいえ
±
2
2人 〃 〃
〃
±
3
3人 〃 〃
〃
-
4
4人 〃 〃
〃
-
POT(10) 動機について
質問事項
返答
反応
1
親子関係のもつれからやつたか知つていますか
いいえ
±
2
友達仲間の喧嘩 〃 〃
〃
-
3
金銭関係や土地,家,財産のもつれから 〃
〃
+
4
話合のもつれから 〃 〃
〃
-
5
今尋ねた以外の理由で 〃 〃
〃
-
POT(11) 親兄弟に対する日頃の考えについて
質問事項
返答
反応
1
あなたは松岡とみさんと仲よくしていましたか
いいえ
-
2
〃 甲さんとは仲よくしていましたか
〃
-
3
〃 松岡とみさんを恨みに思つていましたか
〃
+
4
〃 甲さんを恨みに 〃
〃
-
POT(12) 事件について
質問事項
返答
反応
1
犯人は殺害現場はそのままにしていたと思いますか
いいえ
-
2
〃 捜査をまどわすため現場を
偽装工作をしたと思いますか
〃
-
3
〃 布団以外にも品物を持出し分散して捨てたり,
かくしたりしていると思いますか
〃
±
4
〃 持出した品物の一部は
自分の家にかくしていると思いますか
〃
±
POT(A) 発見された布団について一番初めにどうして
質問事項
返答
反応
1
今朝警察の人から聞いて始めて知りましたか
いいえ
-
2
近所の人の噂で 〃 〃
〃
-
3
発見される以前から捨てた場所を知つていましたか
〃
+
4
会社の人からきいて始めて知りましたか
〃
-
5
工場の人から 〃 〃
〃
-
POT(B) 発見された布団について
場所の認識
質問事項
返答
反応
1
広瀬山から発見されたか知つていますか
いいえ
-
2
泉山 〃 〃
〃
-
3
あなたの家の近くの伯山から 〃 〃
〃
±
4
大山から 〃 〃
〃
-
(反応欄の記号の意味については別表(2)と同じ)
CQT (○印は関係質問を示す)
質問事項
返答
反応
1
あなたは甲野太郎さんですか
はい
いいえ↑
-
2
〃 ○○町に住んでいますか
はい
-
③
〃 とみさんが行方不明になつていることは
人が騒動する以前から知つていましたか
いいえ
+
4
〃 旅行するのは好きですか
はい
-
⑤
〃 松岡とみさんを殺した覚えがありますか
いいえ
+
6
〃 人が大変迷惑するようなウソを
平気で云いますか
〃
±
7
〃 パチンコはやりますか
〃
-
8
〃 今まで他人に刃物で
傷をつけたことがありますか
〃
±
9
S44.2.21ころ松岡とみさんを殺したのはあなたですか
〃
+
10
あなたはとみさん殺人事件について
本当のことを知りながらわざと隠していますか
〃
+
POT(B) 発見された布団について
場所の認識
質問事項
返答
反応
1
広瀬山から発見されたか知つていますか
いいえ
-
2
泉山 〃 〃
〃
-
3
あなたの家の近くの伯山から 〃 〃
〃
±
4
大山から 〃 〃
〃
-
(反応欄の記号の意味については別表(2)と同じ)
CQT (○印は関係質問を示す)
質問事項
返答
反応
1
あなたは甲野太郎さんですか
はい
いいえ↑
-
2
〃 ○○町に住んでいますか
はい
-
③
〃 とみさんが行方不明になつていることは
人が騒動する以前から知つていましたか
いいえ
+
4
〃 旅行するのは好きですか
はい
-
⑤
〃 松岡とみさんを殺した覚えがありますか
いいえ
+
6
〃 人が大変迷惑するようなウソを
平気で云いますか
〃
±
7
〃 パチンコはやりますか
〃
-
8
〃 今まで他人に刃物で
傷をつけたことがありますか
〃
±
9
S44.2.21ころ松岡とみさんを殺したのはあなたですか
〃
+
10
あなたはとみさん殺人事件について
本当のことを知りながらわざと隠していますか
〃
+